物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

青白い炎 ナボコフ

不思議な小説だ。

架空の詩人ジョン・シェイドの書いた青白い炎という作品に、キンボート博士が注釈を施して発行した学術書という体裁をとったこの本は、

前書き-詩-注釈-索引

から成り立っている。

しかしながら、注釈は学術的な面から浮遊し、それ自体が物語を紡ぎだす。キンボート博士は狂人で架空の国ゼンブラの幻想に取りつかれているのだ。彼は引越先で隣に高名な詩人が住んでいることを知り、自分の想像の国-ゼンブラについて話す。それを元に詩人が詩を創作するであろうことを確信してやまない彼は詩が完成したのを聞き、ある不幸な偶然によりその詩を手に入れる。そして読みはじめて初めて、自分の期待が裏切られたのを知る。詩人はキンボートのゼンブラ幻想についての詩など書いてはいなかったのだ。彼は深い絶望に襲われ、詩に注釈をほどこし、注釈の中で自らのゼンブラ幻想を繰り広げることによって詩人の詩に侵食し、詩と自らの創作を分離不能なものにしようとする。私たちはキンボートの注釈を通じてゼンブラに関する一つの小説を読み、キンボートとシェイドの会話や近所付き合いを読み、「青白い炎」というシェイドの書いた詩を読むことになる。

青白い炎は創作活動を通じて世界の神髄を見つけ出す霊的な瞬間そのものが、創作の目的であるというテーマと同時に、書かれたものを読む行為もひとつの創作であると訴えているのだ。

”ある日眼を覚ましたら、読む能力がまったく何もなくなるということになったらどうだろうか?わたしの願いは、自分が何を読むかということだけではなく、それが読めるという奇蹟に息を呑んでほしいということなのだ”

"朗読したのは彼の無名の友人が一人が書いた無名詩であることが判明した-シェイドは下積みの詩人に対して大変親切なのだ”