物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

2008-01-01から1年間の記事一覧

わたしを離さないで カズオイシグロ 2005 イギリス

小説の理不尽な世界設定は、作者が書きたかった状況を作りだす為の背景にすぎなくて、三角関係の話だなと思った。限られた人間関係の微細な心の動きをひたひたひたひた追った話。人と人の濃い関わりについて話したかったのだと思う。

灯台へ ヴァージニア・ウルフ 1927 イギリス

ウルフの小説の素晴らしい所は、なんでもない一日、いや一瞬でさえも、抽象化されて高度な次元の一日、一瞬になっている所。食事についての会話を描きながら、それが人生について、人間が生きていること、今についての描写になっている。名づけようのない感…

睡蓮の教室 ルル・ワン 1997 オランダ,(中国)

中国。文革の時代を背景にした少女の話。少女が第二次成長を向える時の、自分の体を嫌だと思う気持ち、男の子を嫌う気持ち。同性を好きになる気持ち、それから、人と人の結びつき、パワーゲームの関係が描かれていると思う。蓮は、女の子らしくない、ある種…

恥辱 J.M.クッツェー 1999 南アフリカ

自己分析をしている男がいる。“他人と同居できずに、2度の離婚を経験した。自分には人がありふれてもっている情愛が欠けていると。けれども、性欲は処理したいから、娼婦を買っている。うまくいっている。けれど、そろそろ初老の域に入ってきた。かつては、…

カラマーゾフの兄弟 ドストエフスキー 1880 ロシア

時々無性に世界の名作が読みたくなる時がある。 制覇したぞ。 小説の構造は第三者の私が記述している視点(そんなにおおっぴらにならないが)があったり、時世が登場人物ごとにずれていたりと、意外と凝っているので、すらすら読めるけれど気をつけていない…

奇跡も語る者がいなければ ジョン・マグレガー 2002 イギリス

甘い。何が甘いかというと、語り口。平易な感じの優しい連続的な文章がその感じを増長させている。ただ、これは訳の問題かも。 何気ない日常を生きる人々の中にも、大切な毎日があって、都会で孤独といわれるけれど、でも、つながってもいて、そんな中でおき…

人間喜劇 ウィリアム・サロイヤン 1943 アメリカ

物語の主軸となるホーマー家の話もよいが、あいだあいだに挟まれる短い話がおもしろい。 ホーマー家の話だけを読むと道徳的な善の側面を美しく書くだけの作家のように思うかもしれないが、この村の市井の人の話と弟ユリシーズの話が挟まれていて、もっと多面…

春を忘れた島 マイクル・ゴールディング

ラストはなかなか悲惨で悲しいが、話は牧歌的に淡々と進んでいく。そしていつのまにか全滅と。 謎の美少女ミリアムという人が登場するが、そのキャラクター造形がおもしろい。大抵、こういう形式の物語においては謎の美少女の内面は謎か分けが分からないまま…