物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

恥辱 J.M.クッツェー 1999 南アフリカ

自己分析をしている男がいる。“他人と同居できずに、2度の離婚を経験した。自分には人がありふれてもっている情愛が欠けていると。けれども、性欲は処理したいから、娼婦を買っている。うまくいっている。けれど、そろそろ初老の域に入ってきた。かつては、女性をたやすく落とせた容姿も衰え始めている。”
男は自分自身を努めて客観的に見ようとして、常に第三者的な視点を自身に向けている。
物語は教え子との情事に始まってセクハラに発展し、職場を追われて娘の所に身を寄せるが、娘が黒人にレイプされてという風に発展する。
災難に晒される自己分析男。かつての考え方と災難に対峙して起こる新しい考え方との対立で、堂々巡りのように悩む姿が淡々と綴られる。男は、自分には普通に人が持っている情愛が欠けていると思っているが、本当は自身に正直すぎるだけなのかもしれない。現代において、私達は常に自己分析にさらされているから、この物語の主人公が自身を非常な所があると分析にするように、誰かも、自身を客観的に見て、自分は非情な人間だと思っている。
また、この小説は、普遍的な現代の意識の描写と同時に、南アフリカが持つ黒人への差別などの社会の問題も描いており、それがなければ成り立たない構造になっているので、社会と個人の両軸が合わさって個人を形成する様がよく分かる。