物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

青白い炎 ナボコフ

不思議な小説だ。 架空の詩人ジョン・シェイドの書いた青白い炎という作品に、キンボート博士が注釈を施して発行した学術書という体裁をとったこの本は、 前書き-詩-注釈-索引 から成り立っている。 しかしながら、注釈は学術的な面から浮遊し、それ自体…

アウラ・純な魂 カルロス・フエンテス

短編集。 耽美、若さを失う事への恐れ、エロス、幻想など。夢幻的な要素も多いけど、おどろおどろしくはなく、都市の中に幽かに見える常ならぬものの気配という感じ。洗練されている。フエンテスがメキシコ育ちではなく、ワシントンで教育を受けた事に機縁し…

破滅者 トーマス・ベルンハルト

新聞の批評でこの本の存在を知り、本当はナボコフの「記憶よ語れ」を読もうと思っていたのに、どうしても読みたくなって手に取った。ベルンハルト初めて読んだけど、 暗いのね。ペシミズムの極みというか(決っして面白くなかったわけではない、むしろ卑小な…

絶望 ナボコフ

「カメラ・オブスクーラ」に続いて、ロシア語時代のナボコフ第二弾。ワクワク。 小説の構造がちょっと凝っていて、ある事件がもう終了した後に、それを計画した男が自分の記憶がその事件について語っているんですよという形をとっている。いわゆる、「信頼の…

カメラ・オブスクーラ ナボコフ

これがあのナボコフ!?と思うくらい読みやすかった!! ナボコフが30代で、ロシア語で書いていた時の作品。 言葉から広がっていくイメージの世界の範囲がまだ狭く、すっきりしているので、ストーリーだけに焦点を当てて読み進める事ができる。ナボコフと…

別荘 ホセ・ドノソ

「とある小国の経済を牛耳るベントゥーラ一族の人々が毎年夏を過ごす辺境の別荘、ある日、大人たちが全員ピクニックに出かけ、33人の子供達だけが別荘に残される。」 という設定から、主役は残された子供達で、その1日の間に起こる様々な出来事が書かれて…

グールド鳥類画帖 リチャード・フラナガン

タスマニア、もといオーストラリアはかつてイギリスの流刑地だったそうだ。 この島の囚人だったウィリアム・ビューロー・グールドが描いた36枚の魚の絵がタスマニアの美術資料館に展示されている。それに魅せられて描かれた物語。 ごつごつした詩的な文体…

1Q84

前半は凄く面白かった。天吾君と青豆ちゃんのそれぞれの背景がわかり、青豆ちゃんが宗教団体のボスを暗殺する所まで。その後、物語は停滞する。青豆ちゃんは阿佐ヶ谷のアパートの一室に匿われて身動きしなくなり、天吾君の日常が劇的に変わることもない。そ…

優男たち ハイメ・エンリケ コロンビア

タイトルから、プレイボーイな男についての話かと思ったら違った。オカマについての本だった。作者とそれから3人の作家達がオカマという自らのアイデンティティとどう関わったかについての話。 構成は以下のようになっている。まず作者の幼年時代。幼い頃か…

六月半ばの真昼どき マリー・ルイーゼ カシュニッツ ドイツ

短編集です。短編にはざっくり大きく分けて2種類あると思う。一つ目は何か現実的な事件などが起きて、それが思いもかけない形で解決されるもの。そしてもう一つは何も起きないもの。ーいや、何かは起きているんだけど、それは具体的な形をとっていなかった…

通話 ロベルト・ポラーニョ

普段は短編小説は好んで読まないけど、今年出遭ってしまった凄い才能〜ロベルト・ポラーニョ〜の日本語訳で読める小説なのでむさぼるように読んだ。 短編小説というと、ちゃんと起承転結があって、ラストのどんでん返しでどれくらい読者をびっくりさせられる…

野生の探偵たち ロベルト・ポラーニョ 1998 チリ

カフェのカウンターから道行く人を眺めて、彼らの一瞬一瞬の人生に立ち会っているような気分になる。主人公の2人、アルトゥール・ベラーノとウリセス・リマ、その2人と関わった時と私の人生ってやつを54人の人が語る。全て違う人が話すわけじゃなくて、…

鳥類学者のファンタジア 奥泉光 2001 日本

いいライブを見終わって、その幸福感にまだつつまれているような読後感。 うきうきわくわく。こういう話はね、冒険がどんなに過酷になっても最後はハッピーエンドで終わるって分かるから、来るべき大団円を心待ちにしつつ、(早く読んでしまいたいような、ま…

吾輩は猫である殺人事件 奥泉光 1996 日本

きっと、「吾輩は猫である」を読んで登場人物に対して愛着があればもっと面白かったんだろうなー。なにせあの有名な出だししか知らず、犯人は寒月だ、東風だと指摘されてもよく分かっていないので、あれ誰を犯人として指摘してたっけ??となってしまった。…

火山の下 マルカム・ラウリー 1947 イギリス

最愛の妻イヴォンヌに捨てられ酒浸りの日々を送っているというよりは、酒浸りのせいで最愛の妻に捨てられた領事の酩酊具合が滑稽でたまらない。突然戻ってきた妻イヴォンヌとの会話の最中にも、最終的に頭の中に浮かぶのは、とにかくまず酒を一杯飲まなけれ…

city アレッサンドロ・バリッコ

「好きなんだ考えることが、ずっとそうする」 変わってるけどね。切ないでございます。読む時、登場人物の誰かに肩入れして読むことってあるでしょう。グールドとシャッツィ。シャッツィの側に感情移入していたから、最期、あんな風に終わってしまって非常に…

わたしたちが孤児だったころ カズオ・イシグロ 2000 イギリス

読ませるのがうまいんだよこの人は。純粋なミステリーじゃないから、謎なんてきちんとは解かれないし、きっとたいした謎じゃないし、その謎を知ったところで悲しみが増すばかりだと分かってはいるものの、先が気になって読まずにはいられない。やっぱり読ま…

フロベールの鸚鵡 ジュリアン・バーンズ 1984 イギリス

おーもしろかったよぉ アイロニーを愛するものはアイロニーに取り憑かれる その通り 現代 アイロニーに満ちている まさしくそのとおり

供述によるとペレイラは アントニオ タブッキ 1994 イタリア

自分の魂に忠実に生きることはどういうことなんだろう。 この物語の主人公のペレイラが考えているのもずっとそのこと。

視る男 アルベルト・モラヴィア 1985 イタリア

35歳の大学教授を勤める主人公。彼は専ら日常を“視る”(覗き視る、洞察する)ことで生きている。最近父親が交通事故に遭い、妻のシルヴィアは「あなたは私とセックスする時に私に聖母を求めるけれども、私は雌豚のようにセックスしたいのよ」という理由で少…

セバスチャン・ナイトの真実の生涯 ナボコフ 1941 ロシア(アメリカ)

「水中の青白い砂の上に宝石が輝いているように見えるので深く肩まで腕を突っ込んだ後で、にぎりこぶしのなかに発見するただの小石は、日常的な日の光に乾かされると小石のように見えるけれども、本当は垂涎ものの宝石なのだという事をぼくは知っている」 人…

贖罪 イアン・マキューアン 2001 イギリス

かつて、自分がついた嘘、(正確には嘘ではないんだけれども)によって一組の恋人をひき裂いた少女。恋人達は、その後の戦争(第二次大戦)で再び結ばれることなく死んでしまう。小説家志望だった少女は、小説家になって、物語を書く。はたしてその行為は贖…

アラビアの夜の種族 古川日出男 2001 日本

物語の長さを憂える者よ、その物語が結び合わさって、めくるめく恍惚を紡ぎだしてくれる様を想像してみるがよい。素晴らしいな。途中の話も大変面白く読みましたが、最後、創りだされた本が制作者を超えて、語られていた物語が、聞きての今に繋がって云々か…

遠い家族 カルロス・フエンテス 1980 メキシコ

小説の書き手である「私」が友人にあって、彼から奇妙な体験談を聞く所から話は始まる。その話は、始まりは普通なのだが、徐々に、徐々におかしくなっていく。あれ、段々日常がゆっくりと静かに歪んでゆくぞ。ぎりぎりぎり。彼の体験談は終わり、「私」はそ…

13 古川日出男 1998 日本

エピソードの全てを回収しきれていない気はするけれど、それは処女作ということで。 読み始めたときは、話が全体として肯定の側へいくのか、否定の側へいくのかが分からず、手探りでどっちだろなーと探ってた。根底に流れているのは希望だったので読後感は良…

巨匠とマルガリータ ミハイル・ブルガーコフ 1929〜1940,1966 ロシア

政治的な色っていうものは、どうしたって、その当時を生きてなければガツンと伝わってこないけれど、おもしろさは残ってく。 はちゃめちゃ。この本はハチャメチャです。悪魔によって、小市民が翻弄されていく様は映像を思い浮かべるだけで、笑ってしまう程面…

俘虜記 大岡昇平 1948 日本

大岡さんは観察者だ。観察して観察して、なぜ米兵を殺さなかったかを見つめ、捕虜収容所の人々のチンケな性格を見つめる。そして同時に、常に客体であって主体になれない観察者の哀しみを抱えているように思う。

虚無への供物 中井英夫 1964 日本

悪い意味での「求めよされば与えられん」。 殺人を求める気持ちが殺人を生む。

わたしを離さないで カズオイシグロ 2005 イギリス

小説の理不尽な世界設定は、作者が書きたかった状況を作りだす為の背景にすぎなくて、三角関係の話だなと思った。限られた人間関係の微細な心の動きをひたひたひたひた追った話。人と人の濃い関わりについて話したかったのだと思う。

灯台へ ヴァージニア・ウルフ 1927 イギリス

ウルフの小説の素晴らしい所は、なんでもない一日、いや一瞬でさえも、抽象化されて高度な次元の一日、一瞬になっている所。食事についての会話を描きながら、それが人生について、人間が生きていること、今についての描写になっている。名づけようのない感…