物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

六月半ばの真昼どき マリー・ルイーゼ カシュニッツ ドイツ

短編集です。短編にはざっくり大きく分けて2種類あると思う。一つ目は何か現実的な事件などが起きて、それが思いもかけない形で解決されるもの。そしてもう一つは何も起きないもの。ーいや、何かは起きているんだけど、それは具体的な形をとっていなかったりする。この短編集に納められているのは殆ど後者の、何もおきないものの方だ。そして、こっちの方が書くのは難しいと思う。
以下、面白かったもの
「でぶ」
醜い女の子が自分自身のアイデンティティを見つけ出す話。作者の子供の頃が元になっているそうだが、写真を見た限りだと綺麗で、そんな風に見えない。意外。
「わらしべ」
夫に女性からの手紙が届き、浮気を予想して1人煩悶する妻の姿をかく。妄想だけで話が展開していく面白さがある。
「6月半ばの真昼どき」
タイトルにもなっている話。留守中に自分が亡くなったという知らせを持って来た女の人がいたという話を隣人から聞いて、その日を思い出してみると…。心の動きと現実が交わった凄く不思議な話。結局訪ねて来た人は死神のような存在だったことが明らかになる。
「道」
夫が亡くなった後に書かれたものだと思う。2人の生きた日々の追憶のようでもあるし、長編詩のようでもある。哀切に満ちた美しいレクイエム。
「いつかあるとき」
亡くなった女性の遺品の資産を数えにいった男に起きた心の変化とは?現実の中に非現実、別の領域がふっと入り込んで去っていく瞬間を書いている。でも、去っていくからこそ、普通の毎日を生きて生けるんだろうな。
「作家家業」
ある売れっ子中年作家の苦悩。これはすごーい面白い。ウィットに飛んでるし。遊び心に満ちている。作家は作家家業の辛さを書かずにはいられない職業なのかも。
「怪鳥ロック」
家に見知らぬ大きな鳥がやってきて去っていく話。ただそれだけの筋なのに、すごく面白いんだこれが。そして、イオセリアーニの「素敵な船と歌は行く」という映画に出てくる大きな鳥を思い出した。