物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

優男たち ハイメ・エンリケ コロンビア

タイトルから、プレイボーイな男についての話かと思ったら違った。オカマについての本だった。作者とそれから3人の作家達がオカマという自らのアイデンティティとどう関わったかについての話。
構成は以下のようになっている。まず作者の幼年時代。幼い頃から作者は自分のオカマ性に目覚め、その事を周囲が認めてはくれないという恐怖も抱いて成長する。次に、作者の師であり友人であったマヌエル・プイグが登場。彼がどのようなオカマであったか、そして、世間が思い描くオカマ像やその期待するイメージにそった行動をとっているステレオタイプなオカマ達をどれだけ軽蔑していたかが語られる。その次が、キューバ出身の作家レイナルド・アレナス。自殺する直前の彼と交わした会話の思い出や、彼の抱く深い悲しみ。そして3人目の作家が、作者が青年時代から惹かれた作家フェデリコ・ガルシア・ロルカロルカの華々しい軌跡を辿りながら、自らのオカマ性の解放がロルカの作風にどのような変化をもたらしたかを考察する。
そして最後にまた現在の作者に戻る。作者と同姓同名の人物との奇妙な邂逅が語られる。中年になってやっと作者は自分のオカマ性を認め、これがーこれこそが私ですと表明することができるのだが、例えオカマではなくとも、自分自身と向き合い、それを受け入れて生きていくことはなんと難しいことかと思う。

一つ発見があった。オカマであっても、その事を隠し、異性愛者であるように振舞い、結婚などをする人のことをクローゼットというらしい。成る程。


「なあハイメ、私は何という人生を送ってきたことだろう。キューバでオカマの知識人であることの苦悩は、革命以前でさえも、まったくひどいものだった。あんな惨めで偽善的な世界はもうこりごりだ」かれはそこで一息ついた「私はついに地獄を出て、希望に満ちてこの地に来た。だが結局は、ここも別の地獄にすぎなかった。拝金主義というのは、キューバの最悪の欠点と同じくらいたちが悪い。この地で過ごしているうちに、マンハッタンはもうひとつの地獄島にすぎないと感じるようになった。前よりも広くて娯楽も多いが、でもやはり牢獄に変わりはない。ということは、地獄はこの二カ所だけじゃないということなんだろう。私はある地獄を後にして、別の地獄に堕ちた。暗黒時代の再来を、生きて目にすることになるとはな。この疫病ーAIDSーはわれらの時代が病んでいることの兆候にすぎないのさ」

引用した部分は、悲しみにつつまれた作家レイナルド・アレナスが語った部分なので暗いが、本全体のトーンは全然重くない。むしろ、第三者的で淡々としてる。感情は注意深く隠されているので、表面はつるつるしていて読みやすい。