物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

視る男 アルベルト・モラヴィア 1985 イタリア

35歳の大学教授を勤める主人公。彼は専ら日常を“視る”(覗き視る、洞察する)ことで生きている。最近父親が交通事故に遭い、妻のシルヴィアは「あなたは私とセックスする時に私に聖母を求めるけれども、私は雌豚のようにセックスしたいのよ」という理由で少しの間家を出でしまう。彼は妻が家を出たのは、二人だけの家で暮らしたいのに父親と同居している今の生活が嫌だったからだろうと推察して、かつて、父親への『造反』から手放してしまった自分名義のアパートを戻してもらおうとする。ところがシルヴィアは「家を出たのは私に男がいるからよ。でも愛しているのはあなただけ」と言い、その後、どうやら妻の言う男は自分の父親らしいということが分かる。
そんなに期待しないで読み始めたけれど、1章目の終わり位からああこれは面白い、めっけもんだと思ったね。人間の感情がああそうだよねというようにストンと腑に落ちるように描いてある小説は好きでこの「視る男」もそう。視る男だけあって、主人公は自分を観察し、相手を観察し、実際に覗き的なこともしている(妻と知り合ったのは覗きがきっかけであった)。しごく冷静に自分の感情を高みから観察している記述が主なのだけれども、時々己の思いに流されてしまう描写があって、合理主義過ぎないところが人間のどうしようもなさを表していて面白い。
※調べてみたら、モラヴィアゴダールの映画「軽蔑」の原作者だった。この「視る男」は面白かったので、「軽蔑」も原作を読んでから観たら理解できるかも。