物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

グールド鳥類画帖 リチャード・フラナガン

タスマニア、もといオーストラリアはかつてイギリスの流刑地だったそうだ。
この島の囚人だったウィリアム・ビューロー・グールドが描いた36枚の魚の絵がタスマニアの美術資料館に展示されている。それに魅せられて描かれた物語。
ごつごつした詩的な文体で、けっして取っ付きやすい文章ではないのに、はやく読んでくれ、そうでないと魅力が半減すると、グールド(この物語の主人公でもある)に訴えられているようで、溢れる情報を咀嚼しきれぬまま、スピードをつけて読み切った。
グールドがタスマニアのサラ島に流刑され、囚人としてあらゆる腐敗を見ていくのだが、後半、医師を殺した罪で独房に入れられてからの展開が凄い。冒頭でグールドが語っていた王の正体が明らかになった時はぞっとした。医師の頭蓋骨が現地人の頭蓋骨と間違えられて賞賛される下りも最高。黒いユーモアが満開。そしてそのユーモアの分だけ、グールドの孤独と絶望が感じられて切なくなる。

「権威を相手にする際に最も楽な道は、必然的に黙従すること。相手が愚かな分だけ、それに比例して自分も愚かになる必要がある」