物語と手をつないでく

読んだ本について書いています。海外小説が多いです。

贖罪 イアン・マキューアン 2001 イギリス

かつて、自分がついた嘘、(正確には嘘ではないんだけれども)によって一組の恋人をひき裂いた少女。恋人達は、その後の戦争(第二次大戦)で再び結ばれることなく死んでしまう。小説家志望だった少女は、小説家になって、物語を書く。はたしてその行為は贖罪足りうるのか。
コップがあって、容量ぴったりに水が入っているように、テーマをあますところなく書き尽くしている感じである。マキューアンの心理描写は微に入り細を穿っていて、主人公ブライオニーが嘘をつき続けてしまう状況も、人が持ってしまう弱さをあぶりだしていて読んでいてはがゆい気分になる。
この小説はメタ構造になっていて、ブライオニーの過去を現在のブライオニーが振り返って書いている小説を読者は読んでいるという設定を、実際の書き手=マキューアンがしている。彼女の言葉をかりて、マキューアンは、小説は贖罪になるのかと問いかけている。答えはノン。あらかじめ、全てを設定する神の存在である小説家には、はじめから贖罪はありえない。そのかわり、試みることが全てなのだと。きちんと完結している、いわば閉じている小説だと思った。だからなのか、読んでいる間は非常にのめり込んだが、読み終わった後に残滓が残ったりはしなかったなぁ。